FANTIC - ファンティック。イタリア、トレヴィーゾにある、この小さなモーターサイクル・カンパニーが生み出す商品をなぜ私たちが日本に紹介しようと考えたのか。そこを知っていただくと、私たちがいま、この商品に夢中になっている理由や、真剣に、そして丁寧に扱いながらお客さまに紹介させていただいている理由が、わかっていただけるかもしれません。
私たちとFANTICとの最初の出会いは、2017年11月のEICMAでした。一般にミラノ・ショーと呼ばれる、世界最大のモーターサイクル・ショー。毎年11月に開催され、世界中のモーターサイクルに関係するメーカーが集まり、お客さまに競うようにその作品を見ていただくためのショーです。2017年のショーでは、私たちはLambretta、ランブレッタというイタリア生まれの美しいスクーターを生産するメーカーとの、日本総代理権をめぐる交渉が一つのテーマでした。もちろん、ほかにいくつか取り扱っている部品メーカーとのミーティングも抱え、短い滞在の中で大きなショーエリアを走り回るように巡りながら、多くの知り合いにあいさつして回りつつ、新しく魅力的な様々なこの世界のトレンドを体感していました。
そのなかで、ひときわ目を惹いたのが、FANTICのCaballero Scramblerでした。
鮮やかな赤に彩られた燃料タンク。マシンの右側にセミアップにまとめられた2本のエキゾースト。ストロークのたっぷりととられたサスペンション。ディテイルを丁寧に仕上げたスタイル。見るからに軽快そうなそのマシンは、私たちが知っているオートバイの原点そのものであり、本当に衝撃的なほど素直に「格好いい」と思わせてくれるものでした。一目ぼれ、といってもいいかもしれません。
私たちがオートバイに乗る理由。もちろん、便利だからとか、燃費がいいからとか、実用面の理由も無くはない。あるいは、友達が乗っているから、仲間と遊びに行きたいから、といった外的な理由も少なからずあるでしょう。それでも、最も重要な決め手は、格好いいから。それに尽きるとは思いませんか。そのマシンが格好いいから。そのマシンに乗る自分が素敵だから。そのマシンを知るあの人が素敵だから。そのマシンを走らせるあのスタイルが美しいから。格好いい、という言葉にはいろいろな意味が込められているとは思いますが、いずれにせよ、格好いい、というキーワードが一つもないのに、オートバイのような。夏は暑く冬は寒く雨にも風にも雪にも弱くて髪もくちゃくちゃになって転べば痛いしそもそも自立することすらできないようなめんどくさい乗り物を、好んで乗るなんてことはほとんどないと思います。仕事でもない限りは。
FANTIC Caballero Scramblerは、まさにその琴線に触れる…というか、もう真ん中剛速球、どストライクなスタイリングでした。観た瞬間から自分のものにしたくなるスタイル。走り出したくなるカタチ。
ミラノ・ショーの会場には、世界中からオートバイが集まってきていますから、毎年1台や2台はドキドキするようなマシンが現れるものなんです。それ自体は珍しくはありません。ただ、これほどまでに心臓が撃ち抜かれるようなカッコよさにしびれることはそう何度もあるものではありません。EICMAにもう過去何度行ったかわからないほど通ってきた私たちですから、それはよくわかっているつもりでしたが、この年のショーは本当に参りました。1台は、Lambretta。もう1台が、FANTICだったのです。
Lambrettaの美しさについては別項でゆっくりと解説させていただきますね。
FANTICはしかし、日本での歴史も何となく知っていましたし、無くなってからしばらくたった印象だったのが突然こんなバイクを作って復活なんてチョット怪しさもありましたし、そもそも私たちのその年の目的とは違うところにあるモデルでありメーカーでしたし、詳しく掘り下げる時間もありませんでした。そこで、自分の中の宿題に、と持ち越すことにして、ショーの会場を後にしたのです。
2018年に入り、私たちはLambrettaの取り扱いを始めました。ミラノの会場で実際の車両に触れ、確認したLambrettaは、日本についてからもやはり美しく、予想外なほどによく走り、バランスのとれた素晴らしいモデルでした。私たちはゆっくりと、この素晴らしい商品を日本中のお客さまが手に入れやすいよう、全く新しい考え方の販売店政策を用意して、売り始めました。このやり方は少しづつ広がり、多くのお客さまのために働きたいを考える販売店が、私たちとともに、このステキな商品を紹介するお手伝いをしていただけるようになりました。
そして、2018年の11月。再び、私たちはミラノ・ショーの会場にいました。Lambrettaやほかの取扱商品の打ち合わせを中心に。この年、イベントのはざまで非常に短い滞在となった中でしたが、再びFANTICと出会うことができました。今度は、FANTIC自身のブースだけではなく、ほかのメーカーのブースでも。すなわち、私たちのように、FANTIC Caballeroがオートバイに溢れたこのヨーロッパでも、ブースのアイコンに使いたくなるくらい、格好いいバイクであると認めているという意味なんだ。それが明確に伝わってきたのです。実際には発表から1年、販売開始からわずか半年もたっていないモデルであったのに。おまけに、ブースにはモデルバリエーションも用意され、ブースのサイズも大きくなっていました。販売台数は大したことはないけれども、この先も頑張ってこのモデルとこのブランドは勝負をしていくぞ。そういう決心が伝わってきたのです。
その時、ブースに置かれていたCaballero Scramblerは、1年前と変わらずに、いやそれ以上に美しく、私たちに訴えかけてきました。さらに、市場が育ってきているのも感じ取ることができました。スクランブラーというスタイルのオートバイが、多くのメーカーから次々に生み出されてもいたのです。オートバイの原点のようなスタイルなのに、今の流行のスタイルでもある。すなわち、そこには普遍的な、オートバイ好きがそそられるスタイルがあるはず。だから、その美しさがもろに響いたわけです。
間違いない。私たちが、このマシンを、日本に紹介しよう。私たちが取り扱うべきだ。私たち以外の誰にこのモデルが扱えようか。
もちろん、マシンのスタイルがどれほど美しくても、オートバイとして取り扱う以上は超えていかねばならない条件がたくさんあります。信頼できる生産体制、安定した部品の供給、品質と耐久性、などなど、世界のオートバイメーカーのトップ4が集まる日本で日本製のバイクを買っていれば当たり前に享受できる当たり前のことを、すべて満たして初めてお客さまは外車を選んでくださいます。すなわち、それができないメーカーは長く生き残ることもできませんし、私たちも安心して取り扱うことができません。私たちには長年、世界のオートバイを輸入販売してきたベテランのスタッフが揃っていましたから、日本でキチンとお客さまに認めていただくためには、スタイルだけではない何が必要なのかは十分に熟知していました。私たち自身がユーザーでもありますから、お客さまが期待することがなんなのかも、十分に理解していました。そして、オートバイを売る仕事をしてきましたから、バイク屋さんが売りたくなる商品に育てていくためには、何が必要なのかもよくわかっていました。そのすべてが揃ってもなお、オートバイを簡単には売れるような環境が日本にないことさえも、理解していました。それでも、FANTICは日本に紹介する価値がある、そう考えたのです。
これが、私たちがFANTICを取り扱うきっかけであり、理由です。どうでしょう。観て、触って、乗ってみたくなりませんか?この素晴らしいマシンには、私たちのショールームのほか、正規販売店の店頭でもお会いいただくことが可能です。ぜひ一度、みなさまご自身でお確かめください。きっと、自分の手元に置くパートナーとしてお選びいただけることと、確信しております。
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